【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】 5冊目 (775レス)
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683: [sage saga] 2016/11/24(木)23:11 ID:V3Gh3kBt(3/34) AAS
屋上

 フェンスの近くにあるベンチに腰掛けた真九郎の膝の上に夕乃が乗っかる。

 決して小さくはないが、その温もりをより味わう為、真九郎は

自分の正面へと夕乃の座る向きを変える。

「我慢、出来なくなっちゃったんですか?」
省10
684: [sage saga] 2016/11/24(木)23:11 ID:V3Gh3kBt(4/34) AAS
「...」

 その瞬間、夕乃の目からハイライトが消えた。

 真九郎のポケットから携帯電話を取りだし、電話をかけてきた相手を

確認する。

 案の定、その相手は村上銀子だった。 
省11
685: [sage saga] 2016/11/24(木)23:12 ID:V3Gh3kBt(5/34) AAS
「夕乃さん。銀子には手を出さないでね」 

「真九郎さん...でも...」

 通話ボタンを切った真九郎は、恐ろしい威圧感を撒き散らす夕乃に

怯えることなく普通に釘を刺した。

「ちゃんとお別れは自分の口で伝えなきゃ意味が無い。そうでしょ」
省7
686: [sage saga] 2016/11/24(木)23:12 ID:V3Gh3kBt(6/34) AAS
「全く、真九郎さんは罪作りな人ですね」 

「夕乃さんには負けるよ。可愛くて純粋で男タラシの罪作りな夕乃さんには」

「なっ。私はそんなふしだらでもなければ男タラシでもないですっ!」

「そうかなぁ?サッカー部の主将が夕乃さん好きだって噂、有名だよ」

「私はあんな人好きでもなければ、眼中にもないですっ」
省11
687: [sage saga] 2016/11/24(木)23:13 ID:V3Gh3kBt(7/34) AAS
 「はい。あーん」

「あーん」

 昼間から豪勢な夕乃の手作りの料理を頬張る様を本当に嬉しそうに

眺める夕乃は、更に甲斐甲斐しく自分の箸で鮭の切り身を真九郎の口に運ぶ。

 真九郎も夕乃と付き合う前は、こうした『女の夢』というものに対して
省5
688: [sage saga] 2016/11/24(木)23:13 ID:V3Gh3kBt(8/34) AAS
「ふふっ...美味しいですか」

「うん。夕乃さんの料理はいつも美味しいよ」

「ふふーん。そうでしょうそうでしょう」

「なんて言ったって真九郎さんへの愛が一番籠もっていますから」

「じゃあ、今度は俺が夕乃さんのお弁当つくってあげる」
省18
689: [sage saga] 2016/11/24(木)23:14 ID:V3Gh3kBt(9/34) AAS
放課後 新聞部部室

 最後のHRの終了後、真九郎はいつものように新聞部の部室へ向かう。

 誰も部員がいない部室のたった一人の主は、いつもの場所にいた。
 
「遅い。何してたのよ」

「悪い。夕乃さんと一緒にお弁当食べてたんだ」

「はぁ...また崩月先輩?」
省14
690: [sage saga] 2016/11/24(木)23:14 ID:V3Gh3kBt(10/34) AAS
「ん?46万円ものツケをどう一括払いする算段をつけたかって?」

「えーっと杉原さんの一件で使ったヤクザの組があるんだけどさ...」

「そこの内部でちょっとしたゴタゴタがあったんだ」

「で、そのゴタゴタをなんとかしてくれって俺に直接連絡が来たんだよ」

「アンタ...なに勝手なことを...」
省12
691: [sage saga] 2016/11/24(木)23:14 ID:V3Gh3kBt(11/34) AAS
(あった...)

(一つだけ、あった)

 脳裏に浮かぶ、世界の裏を牛耳るどす黒いまでに大きなあの組織。

 不幸なことに自分はそこに務める悪党どもを知ってしまっている。

「まさか、真九郎...アンタ、悪宇商会と手を...」
省8
692: [sage saga] 2016/11/24(木)23:15 ID:V3Gh3kBt(12/34) AAS
「これ、今回の資料」

「うん。ありがとう」

 必死になり震えを隠そうとする銀子だったが、それは無理な話だった。

 いつもと変わらぬ風を装っている真九郎だが、その背後から漂ってくる

血腥い鮮血の匂いが、自分の知っている幼馴染がもう引き返せない所にまで
省12
693: [sage saga] 2016/11/24(木)23:15 ID:V3Gh3kBt(13/34) AAS
この時ばかりは、依頼者の所持する圧倒的暴力が頼もしく思えた。

 だが、銀子はあまりにも簡単な事を失念していた。

 真九郎が『崩月』だということを..

 そして、崩月はあと一人この学校にいるという事を....

 心の整理がつかない中、必死に真九郎に何が起ったのかを頭を
省14
694: [sage saga] 2016/11/24(木)23:15 ID:V3Gh3kBt(14/34) AAS
「なんでよ!!アンタあれだけ暴力が嫌いだったじゃない!!」

「揉め事処理屋を辞めるなら一緒にラーメン屋やっていこうって...」

「それなのに!どうして!!」

「どうして...私のこと、待ってくれなかったのよ...」

「銀子は、何も悪くないんだ。悪いのは全部俺だよ」 
省12
695: [sage saga] 2016/11/24(木)23:16 ID:V3Gh3kBt(15/34) AAS
 なぜなら、それは...

 真九郎が日の当たる世界を拒んだことに他ならないからだ。

 人の命が蝋燭の灯火のように軽く吹き消され、血と怨嗟と暴力の

屍山血河の世界こそが自分の身の置き場。

「分かった...崩月先輩に誑かされたんでしょ、ねぇ!」
省10
696: [sage saga] 2016/11/24(木)23:16 ID:V3Gh3kBt(16/34) AAS
「銀子の言いたいことは痛いほど分かる」

「でも、さ...」

「サラリーマンとか畑を耕す自分を俺は想像できないんだよ」

「まぁ、例外としてラーメン屋は選択肢にはいってたけどね」

「じゃあ、いまからでも...」
省14
697: [sage saga] 2016/11/24(木)23:17 ID:V3Gh3kBt(17/34) AAS
「...絶交よ。アンタなんか、もう...顔も見たくない」

 もう、真九郎の心の中に自分はいないという絶望的な事実に気が付いた

銀子は真九郎を睨み付け、絶交宣言をした。

 今の銀子の目には、真九郎がかつて自分達を攫った人身売買組織と

全く変わらない存在にしか見えなかった。
省6
698: [sage saga] 2016/11/24(木)23:17 ID:V3Gh3kBt(18/34) AAS
「帰ってよ!この人でなし!!」

「私利私欲の為にこれから多くの人を傷つけ、殺しまくるんでしょ!」

「出てって!出てけってばぁ!!」

 銀子に背を向け、感情任せにその拳に叩かれている真九郎。

 分かっている。
省12
699: [sage saga] 2016/11/24(木)23:17 ID:V3Gh3kBt(19/34) AAS
 高校から五月雨荘に戻るまで、携帯電話が鳴り止むことはなかった。

 着信履歴100件とメールが156通。

 我ながらよくもまあここまで酷いことを幼馴染みに出来た物だと

乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

 メールの内容を見ると、まだ間に合うから裏社会の闇に染まる前に
省7
700: [sage saga] 2016/11/24(木)23:18 ID:V3Gh3kBt(20/34) AAS
「正直な話、心が痛いですよ」

「銀子の俺への想いが分からないわけじゃなかった」

「だけど、いつかはこうなることはわかりきっていたのに...」

「もう、良いじゃないですか。真九郎さん」

「真九郎さんには私とちーちゃんと紫ちゃんがいます」
省13
701: [sage saga] 2016/11/24(木)23:18 ID:V3Gh3kBt(21/34) AAS
「次は〜○○〜○○行の電車が...」

 あれほど鳴り響いていた携帯電話のバイブレーションがいつの間にか

鳴り止んでいた。

 ホームに滑り込んできた電車が口を開け、乗客達を吐き出し始める。

「じゃ、また明日学校で」
省9
702: [sage saga] 2016/11/24(木)23:18 ID:V3Gh3kBt(22/34) AAS
五月雨荘

 紅真九郎が五月雨荘の自室に戻ったのは午後六時を少し過ぎた所だった。

 おんぼろになったドアを開け、自分の部屋に入ると、そこには

小さな天使がいて、自分にほほえみかけていた。

「真九郎!遅かったな。お帰りっ!」
省11
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